photo : 資人導

《オトナの落研~魚心あれば時に恋心あり?》①文菊の艶やかな花魁に心惑わされる「お見立て」

カルチャー

 ゆるゆると始める新連載「オトナの落研」。まず1回目を始める、その前に「どうして私“丸めがね”が、突如落研の部長として連載を始めるのか?」について、少しご説明を。
 私にとって「落研」とはー。大きな声ではいえませんが“趣味の延長”であり“ガチ部活”であります。本業は魚食推進プロジェクト「SAKANA & JAPAN PROJECT」のWEB運営。幼い頃から「肉より魚!」の私にとっては願ったり叶ったりのお仕事でしたが、昨今の肉ブームに押され、なかなか魚食への関心を広げるという大命題に苦戦しておりました。
 そこで!昨今の落語ブーム(?)にあやかって、やや強引ですが「落語×さかな」企画はどうだろうと思い立ち、こちらの『メトロポリターナトーキョー』とのコラボをスタート。落語は好きだけど、決して詳しくはない私・丸めがね主導のもと、無事開始の運びとなりました。今後、「娯楽」と「魚食」がどう交差していくのか―。不安積載、予算低めでも、気合いだけは十分の企画!どうかお付き合いくださいませ。

喧嘩してたってチャーミングな女性を

 さて、ようやく本題です。
 1回目は、女性の美に寄り添い続ける資生堂さんが“笑うことで美しくなる”を掲げ、東京・銀座「SHISEIDO THE TABLES」で開いた落語イベント『花椿寄席 ~古今亭文菊師匠をお迎えして~』にお邪魔してきました。
 まず、今回の寄席のゲストについて広報・谷内由美子さんにお話を伺ったところ「師匠の声色や言葉遣い、しぐさによって江戸文化に見られる女性の艶やかさやウイットに富んだ『粋な美』にも、ぜひ想(おも)いをはせて笑いを楽しんで頂ければ」とのことでした。
 その言葉通り、文菊師匠は、座布団に座ってお扇子持つだけで、静かに色気がにじみ出てしまうような、どこか妖艶(ようえん)な方。噺がはじまれば尚のこと、吉原の花魁(おいらん)から貧乏長屋の女将(おかみ)さんまで、どんな女性にも艶があります。
 いよいよ、店内に出囃子が鳴りわたり花椿寄席はスタート。客席には着物姿の女性も多く、普段の演芸場でみかける雰囲気とはまた違った空間ができあがっていました。そこへ、下手からススっと登場する文菊師匠。「色々な所で落語をしますが、こんなキラキラしたオシャレなとこでなんて、ねぇ」とほほ笑みながら、ゆっくり高座は始まりました。
 この日の演目は文菊師匠が1人で2席。1席目は蕎麦(そば)を何枚食べられるか?という賭け事から始まる「そば清」で、2席目は花魁が登場する「お見立て」。もちろん、会の趣旨からいえば2席目が本命です。

rakugo6.jpg文菊師匠の熱演で、スタイリッシュなカフェが一変して寄席の雰囲気に photo:資人導
 お見立ては、落語界では“廓噺(くるわばなし)”と呼ばれるもので、舞台は吉原の遊廓。田舎の金持ちの旦那さんが、久々にお目当ての花魁に会いに来るところから始まります。女郎屋の受付では、上得意の旦那さんが姿を見せたとあって、威勢のいい「いらっしゃいませ~っ!!」の声。現代でいうボーイさんのような役割を果たす若い衆・喜助も、手際よく旦那を部屋に通して、花魁を呼びに行きます。
 でも、肝心の花魁が「あの旦那の顔はもう見たくない」、「入院したとか嘘などついて、このまま帰ってもらって」と、まさかの職務放棄! どんなに説得しても応じてくれません。困り果てた喜助は、嘘に嘘を重ねてなんとか旦那を追い返そうとするのですが…という噺。
 この日、私は文菊師匠の「お見立て」を初めて聞きました。何より新鮮だったのは「花魁がとてもかわいい」という点。これまでは「客をもてなすのが仕事なのに、顔が嫌だとか田舎くさいとか文句ばっかりで、駄々をこねては若い衆を困らせるワガママな女」という印象。手が焼けるばっかりで、かわいげなんて感じなかった。
 ですが、「ねぇ。お願いだから、上手に追い返してちょうだい。ね。お願いよ」とシナを作りながら手を合わせる文菊師匠の花魁は、すごく意地らしくて許したくなる。拗(す)ねて、ワガママを言って、おねだりするしぐさすべてが色っぽい。多分、正真正銘の小悪魔なんでしょうけど、同性の私でも「あぁ、だまされてもいいな」と思えました。
 開演前、師匠に「どうしてそんなに色気があるんですか?」と、どストレートな質問をしました。すると「(噺の中で)夫婦喧嘩(げんか)するときなんかにね、女性の乱暴さを出し過ぎて、お客さんに嫌悪感を持たせちゃいけないでしょ。私自身も、口喧嘩してたって相手にはチャーミングであってほしいと思ってる。そんな姿を見せることで、お客さま側にもきっと、好意的に受け止めてもらってるんじゃないかしら」

rakugo7.jpg身振り手振りを交え、インタビューに答える文菊師匠 photo:資人導
 聞き終わって、これが「女性のお客さまが見ても、チャーミングに見える」ということかと思いました。プライベートでも仕事でも、何か反対意見やちょっと自分を通したい時は「どうチャーミングにみせるか」が大事。ここを怠るのは、女性としてすごく損なことかもしれないなぁと、思いがけず勉強になった寄席でした。
 というわけで不肖・丸めがね。今後も、部長としてビシッと落語を、落語を取り巻く日本文化や、時に噺家さんのインタビューなど交えながら「落語の世界」をご紹介して(おいしい魚にありついて)参ります!

 【きょうの噺家さん】
 古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)
 学習院大学文学部史学科卒業後、古今亭圓菊に入門。2003年1月に前座、06年5月に二ツ目に。12年9月には28人抜きで真打に昇進。これまでNHK新人演芸大賞落語部門大賞などを受賞。

 【丸めがねが選ぶ“きょうの魚”】
 出汁あんかけのお粥膳(鯛出汁)
 鯛から丁寧にとった出汁(だし)を、あったかい白粥にたっぷりかけていただくお粥(かゆ)膳。「出汁あんかけ粥」「高野豆腐の揚げ浸し」「古来種野菜の生姜塩麹漬け」「山椒昆布」「梅干し」「ごま塩」の6品。

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⇒ きょう魚について、詳細はコチラ!
 SAKANA & JAPAN PROJECT版「オトナの落研」

【SHOP DATE】
  SHISEIDO THE TABLES(中央区銀座7-8-10 SHISEIDO THE STORE 4F)
  TEL 03-3571-1420(受付時間 11:00~20:00〈L.O.19:30〉)
 https://thestore.shiseido.co.jp/the-tables/

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丸めがね部長 大きめ丸眼鏡と切りすぎてる前髪が目印の落語好き女子。TBSドラマ「タイガー&ドラゴン」で落語にハマるも、好きな噺家は古今亭志ん朝(3代目)に桂枝雀と、マニア度は浅め。朝の通勤ラッシュは落語を聞いてニヤつきつつ、夜になれば足が向くまま赤提灯(ちょうちん)へ。好きな魚料理とお酒でいい心持ちになり、家に帰って寝て起きて。電車に乗れば、またイヤホンつけて…こんな丸めがねが、食べて飲んで笑ってるだけの「落研日記」はじめました。



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